ホイールを組み立てる

ホイールの組立が自転車組立の中で一番大変です。でも実際やってみると思ったほどではありません。ちょっと根気が必要ですが、理屈は単純なので誰でも出来ます。これが出来るようになれば他の部分の組立はとても容易なので、どんな修理でも出来るような気がしてきます。そして実際その通りです。ホイール組みは自転車に乗ることよりも簡単です。「ボリショイサーカスの熊は自転車に乗れるが、ホイール組みは出来ないだろう」と言われると返す言葉がありませんが...

■部品を買う

信頼できるメーカーの物を選ぶようにします。出来るだけ安売りのネットショップで部品を集めて安く上げます。

ハブ

左の写真が前用、右が後用です。変速機と同じモデルを購入すれば規格が合う/合わないを気にする必要がありません。このハブはSHIMANO製のフラッグシップモデルですが、このクラスの製品を購入する人たちは完組ホイール(ハブやリムが専用設計された組立済みホイール)を購入するので不人気製品です。前と後ろはセットではなく、前後別々に購入できます。


■気にしなければならない規格の種類とバリエーション
 ・スポークを通す穴の数:
    36、32のどちらかです。当たり前ですがリムの穴の数と合っていなければなりません。
    28穴というのもありますが、28穴のリムが入手難なので、実質選択肢は2種です。
    スポークの数が多い方がより頑丈になりますが、体重が60kg程度の人には36穴は頑丈すぎるように思います。
 ・車軸の太さ:
    前輪用は2種類あります。太さが違うとフォークに取り付けられません。
    直径20mmのものと9mmのものがあります。写真の物は9mmです。20mmの物はダウンヒル用で丈夫に作られています。
 ・ディスクブレーキ対応、非対応:
    ハブの左側に付いているギザギザの部分とディスクローターが嵌合します。
    写真に写っている黒いリングはローターを取り付けないときにかぶせておくゴム製の保護カバーです。
    ディスクブレーキを使わないのであれば、ディスクブレーキ非対応の物がおすすめです、
    ディスクブレーキ対応の前ハブはスポークを通すフランジが左右対称の位置に無いので、左右のスポークの長さが変わります。
 ・その他:
    見た目同じように見えますがロード用とは後ハブの幅や変速機の規格が違うので互換性がありません。
    変速機と同モデルを購入すればこのような問題は絶対に起きません。

■気にしなくても良い規格
 ・オーバーロックナット寸法:
    ハブの幅のことです、前が100mm、後ろが135mmです。ロードバイクは後ろが130mmです。
    ハブのカタログではOLDと略されていることがあります。
 ・リアハブの軸径:
    どれも10mmです。
 ・スポーク穴のあるフランジの直径(並んでいる穴位置の直径)、左右の位置
    同じメーカーでもモデルによりばらばらです。これが異なると必要なスポークの長さが変わりますが、
    スポークは1mm単位に長さの異なる物が販売されているので特に問題にはなりません

後ハブのオーバーロックナット寸法



ハブには油を差したくなってしまいますが、絶対にやってはいけません。分解してグリースを入れ直すのが正解です。
4〜5年に1度やればいいのではないでしょうか?


少し安いクラスのDeoreLXの後ろハブ。軸の部分がネジになっているところなどコストダウンの影響が見て取れます。軸を回すとXTRはなめらかに回りますがDeoreLXは少しゴリゴリ感があります。走ったときにその差を体感できないのでDeoreLXのほうが合理的に作られていると見るのが妥当です。価格もXTRが¥13702に対しDeoreLXが¥2961。

リム

大抵はアルミ製です。1本単位で販売されていることも、2本セットで販売されていることもあるので購入時には要注意。ホイールは晴用と雨用の2組用意することにしました。タイヤを履き替えれば済むことですが面倒なので。左がスイスDT社のXR4.1d、右がフランスMACH1社製(社名ではないかも)のマグネシウム製リム。


マグネシウム製リムはさすがに軽い。アルミ製の方は実測440g。カタログデータだと425gですが自転車部品の重さは、さば読んであるものが多くあります。



■気にしなければならない規格の種類とバリエーション
 ・穴の数:
   ハブの穴の数と同じ物を購入すればOKです。
 ・リムの直径:
   26インチのMTB用でなければなりません。大抵のネットショップではロード用の27インチリムとMTB用の26インチリムは別画面になっているので間違えることはありません。
   ロードバイク用やママチャリ用にも26インチの物がありますが、販売しているのを探す方が苦労するので、間違えて購入することはまずあり得ません。
 ・リムの幅:
   クロスカントリー用途なら20mm程度の幅の細い物でOKです。幅が広くなればそれだけ重くなります。
 ・バルブ穴の大きさ
   使用するタイヤチューブのバルブ(空気を入れる口金の部分)の径に合わせた穴が開いています。
   自転車のバルブの種類は以下の3種類ありますがMTB用として採用されているのは ★印 の2種だけです。
     フレンチ=仏式=ロードバイク用 ★
     シュレーダー=米式=自動2輪や車と同じ ★
     ウッズ=英式=ママチャリ用
   幅の細いリムにはフレンチバルブ用の小さい穴が開いています。幅の広いリムには米式の大きな穴が開いています。
   用途に見合った穴が開いていますので、チューブを購入するとき、リムに合う物を選択すればOKです。

■気にしなくても良い仕様や規格
 ・チューブレスタイヤ用とチューブタイヤ用:
   チューブレスタイヤ用はリム単体で販売されていないようなので間違えることはなさそうです。

■気になる仕様や規格など
 ・ジョイント方法:
   リムは元々真っ直ぐな部材を丸めて作るので必ずつなぎ目があります。つなぎ方は主に「ピンジョイント」「スリーブジョイント」「溶接」がありますが、溶接以外はつなぎ目が
   そのまま残るので、ブレーキをかけたときに気になります。ディスクブレーキであれば問題ありませんが、リムを挟むタイプの通常のブレーキであれば溶接リムがおすすめです。
 ・メーカー:
   有名どころの大手メーカー製の物を選ぶのが無難です。代表的なメーカーは
     アラヤ(日本)
     MAVIC(フランス)
   があります。ほかにもあるのですが実際に使ったことがないので評価は出来ません。スポークを通して組み上げていくと接合部分でほんのわずかに折れ曲がっていたり
   溶接部分がポコッと盛り上がっていたりするのに気がつきます。リムの善し悪しは乗っみても解りませんが組み上げてみるとよくわかります。

スイスDT社のXR4.1d
これは溶接のリム。溶接時のバリもきれいに取ってあります。大手メーカー製でも内側に汚くバリが残っていることもありますがこの製品はとてもきれいです。


MACH1社製のマグネシウム製リム
これは「ピンジョイント」で接合された物。「ピンジョイント」も「スリーブジョイント」もつなぎ目がこのように残ります。これはリムにブレーキシューが当たる部分が無いディスクブレーキ専用です。後から気づきましたがこのリムは米式バルブ用の穴が空いていました。仏式のタイプの物はないようです。
追記
リムはつなぎ目が真円ではないのですが、このリムは、かなり精度良く出来ています。DISKブレーキ専用であることと、高価であることを除けばホイール手組み入門には最適です。振れ取りがとても楽にできます。


スポーク

一番面倒なのがスポークの購入です。リムやハブによって必要な長さが変わってくるため、都度必要な長さを計算して購入しなければなりません。タイヤがはまる部分のリムの直径はすべて同じですがリムの高さは製品ごとに異なります。右の写真の左のリムの方が若干背が低いので長いスポークが必要になります。


■気にしなければならない規格の種類とバリエーション
 ・長さ:
   スポークの長さは都度計算が必要ですが、スイスDT社のホームページにSpokesCalculatorというスポーク長計算機があります。
   必要な項目を入れるとスポークの長さを計算してくれます。
 ・太さ:
   太さは2種類しかないようです。太さの違いは以下の図式になっています。
   スポークが太すぎてハブやリムの穴に通らないということはありません。
     14番=2.0mm=太い=重い=強い
     15番=1.8mm=細い=軽い=弱い
   細くても弱くならないようにスポーク両端が太くて途中が細くなっている物もあります。但しそのぶん高価になります。
   スポークは締め込んでいくと、引っ張られるだけでなくねじる力も加わります、太い方がねじりに対して強いので組み上げやすくなります。
 ・材質:
   多くはステンレス製ですが、鉄製の物もあります。鉄製は錆びるのでステンレス製を購入すべきです。価格差は自転車1台分で¥1000も差がありません。
   チタン製もありますが高価なので殆ど普及していません。
 ・形状:
   空気抵抗を減らすため平たくした物がありますが、ロードバイク用です。ハブの穴に通らないので購入してはいけません。

両端部は直径1.8mm、中間部は1.5mmに細くされたスポーク。これは次第に細くなっていますが段が付いている物もあります。
このように中間部分が細くなっている形状を タブルバテット といいます。スポークの写真が貼ってあるネットショップは少ないのでこの言葉を頼りにします。
中央部が細くなっていない物は プレーン と言います。


SpokesCalculatorの画面です。
赤い○が前ホイールのスポークの計算に必要な入力欄、青い○が後ホイールのスポークの計算に必要な入力欄。
それ以外の項目は重さを計算したりするためのご参考です。この値はSHIMANO製 XTR(前:HB−M975、後:FH−M975)のものです。


ERD以外はシマノのホームページにある仕様表から転記すれば済みます。
  Pitch circle diameter = スポーク穴ピッチ径(右の写真を参照。この写真のハブは左右で径が異なります)
  Flange distance    = フランジ−センター間
  φof spoke hole    = スポーク穴の直径(下の写真に仕様にありませんが2.5mmです)
  No. of spokes     = スポークの本数
  No. of intersections = スポークの交差数(常に3です)


スポークの交差数。
赤い矢印のスポーク(どのスポークでも同じだが)は○の位置で他のスポークと交差しています。よって、この組み方は交差数「3」となります。
赤い○の部分ではスポーク同士が接触しています。緑の○の部分は少し離れています。青い○の部分は青い矢印で示したスポークと交差しています。
交差とは真横から見たとき交差しているという意味で接触しているという意味ではありません。
真横から見ると反対側のフランジを通っているスポークとも交差していますがこれは数に入れません。
これ以外の組み方は競輪用等の特殊用途の自転車で採用される物なので、通常スポーク交差数は3以外の選択肢はありません。


ERDはちょっとやっかいです。ニップルの溝の底から、対角のニップルの溝の底までの距離です。図にするとこんなです。ニップルとスポークの理想的な関係は目的のテンションでスポークが張られたときにスポークのねじ山がニップルのマイナス溝の底面とツライチになることです。


ERDを最も確実に計測するにはスポークのネジの頭がマイナス溝の底面とツライチになるまでニップルにスポークをねじ込んで...


リムの対角穴にこれを差し込み交差したスポークに印を付けます。スポークの先端(ネジのあるほう)から、この印までの距離を測って足せばERDが計測できます。4カ所程度別の穴を使ってこれを繰り返しその平均値を求めた物をERDとします。このリームはメーカーからERDが538mmであると公表されていますが実測したところ536mmでした。計測値は535〜537mmの範囲にばらつきました。この方法は既にスポークを持っていないと計測できないという欠点があります。


こちらはマグネシウム製リムの結果。ERDは542mmです。実際に必要なスポークの長さは Spoke length precise のところに表示されている物です。前後、左右で切り上げると、
 左前−264mm
 右前−266mm
 左後−265mm
 右前−263mm
となり1mm毎に異なった物が必要になります。ばら売りしていれば問題ないのですが、スポークは100本や72本セット販売が多いので、値を四捨五入して
 左前−263mm
 右前−265mm
 左後−265mm
 右前−263mm
として、長さを2種にそろえます。ERDを計測してからスポークを買う必要があるので一度に部品をそろえることが出来ないところが泣き所です。一度に部品をそろえたければERDが公表されているリムを選択する必要があります。但し、それでもERDは使用するニップルの形状によっても変わってくるので、メーカー公表値が必ずしも正しいとは限りません。


DT社製 製品名:レボリューション というスポーク。両端が2.0mmで中央部分が1.5mmになっています。強度的にちょっと不安がありますがロードバイクはこのスポークを使って問題なく走っているので実験もかねて採用。ばら売りしていたタキザワサイクルで購入。1本¥90。ニップルは、なめてしまったときのために数個余計に購入しますが、スポークは折れることがほとんど無いので予備は購入しません。


ニップル

スポークを購入すると付属していることがありますが、大抵は真鍮製の物が付属しています。

■気にしなければならない規格の種類とバリエーション
 ・材質:
   真鍮製とアルミ製があります。アルミ製は真鍮製の半分の重さしかありません。真鍮製は32個で22g程度、アルミ製は11g程度です。
   走っても実際体感できませんが、少しでも軽くしたければアルミ製を使います。真鍮製の方が強度があるので軽くする必要性が低ければ真鍮の物を使います。
   アルミのほうが色も豊富にそろっています。真鍮の場合ニッケルメッキのみです。
   アルミの方が若干柔らかいのでナメやすいようです。
 ・ネジサイズ:
   14番、15番のスポークに合わせて2.0mmと1.8mmのものがあります。

上がアルミ製。下が真鍮製。左の写真は今回使用したアルミ製2.0mmの緑色のニップル。ちょっと地味。1個¥30でした。


ディスクローター

ディスクブレーキを使うときのみ必要です。リムブレーキを使うのであれば不要です。リムブレーキは雨の日に使用するとブレーキシューがあっという間にすり減ってしまいます。ディスクブレーキは雨の日に強いのが特徴です。

■気にしなければならない規格の種類とバリエーション

 ・メーカー/モデル:
   ブレーキと同じメーカー同じモデルの物を購入する必要があります。

SHIMANO XTRのディスクローター、前が直径160mmで後ろが140mm



カセットスプロケット

後ろギアです。ギア比を変えられるように交換できるようになっていますが、歯数のバリエーションはあまりありません。このモデルの場合、2種のみです。

■気にしなければならない規格の種類とバリエーション

 ・メーカー/モデル:

   変速機のメーカー/モデルと同じ物を購入するのが無難です。もちろん他社製でも互換品ならOKです。ギアの枚数が同じならロードバイク用と互換性があるらしい。

SHIMANO XTRのカセットスプロケット。黒っぽいギアはチタン製、ロー側は負荷が高いので鉄製。






■そろえる工具

絶対に必要な工具とあると便利な工具があります。幸い高価なのはあると便利な工具のほうで、絶対に必要な工具は安価です。実際の価格はサイクルベースあさひで確認してみてください。

振れ取り台(あると便利)

これはホイールを効率よく組み上げるための道具です。作業効率を向上させてくれる物なので、これがないと精度良く組み上げることが出来ないというわけではありません。フレームやフォークでこれの機能を代用できます。強度は必要ないので木で造ることも可能です。



スポークレンチ=ニップル回し(必ず必要)

左の写真のパークツールのニップル回しが一番使いやすく感じます。複数のサイズの溝が切ってある右の写真のタイプもありますが、工具は単機能な物が一番使いやすいのは自転車用に限らずすべての工具に言えることです。
  黒いほう:2面幅が3.2mm 主に外国製のニップル用
  赤いほう:2面幅が3.4mm 主に日本製のニップル用



センターゲージ(あると便利)

リムがハブの真ん中に来ているのかを測る道具です。使い方は組立の所を見てください。



ロックリング回し(必ず必要)

カセットスプロケットとディスクローターを固定するための道具です。もちろん外すときにも使います。1/2インチのソケットレンチで回しても、外側の6角形の部分をモンキーレンチで回してもOKです。SHIMANO製 TL−HG10。これはちょっと古い物で最新の物はTL−LR10です。


TL−HG10とTL−LR10のサイズの違いはたったこれだけ。右のTL−LR10のほうが僅かに背が高い。

ピンセットとドライバー(あると便利)

特になくても問題ありませんがニップルの仮止めやリムの穴にニップルを差し込むのに便利です。





■組立

先ず最初の目標はこの状態にすること。スポークに張力がかかっていないが規則正しくハブの穴とリムの穴をスポークでつないである状態。リムに張ってある黄色い紙テープはスポークのネジでリムを傷つけないようにするための養生なので特に気にしなくてかまいません。


規則性がどうなっていいるのかを理解するために一番良い方法は現物をよく見ることです。ママチャリでもロードバイクでも規則性は同じです。

規則性1:空気を入れるバルブはバルブ両側のスポークがほぼ並行になったところから出ている。もし、右の写真の割り箸で示した部分からバルブが出ていたら空気を入れるときにちょっと狭い思いをしなければいけません。(本当にちょっとですけど)


規則性2:リムの穴はリムのセンターに開いているのではなく1つ置きに左右にオフセットして開いている。そしてハブの右側とリムの右にオフセットした穴とがスポークで結合されている。


規則性3:ハブを通るスポークは外側にスポークの頭がある物と、内側に頭がある物が交互に並んでいる
規則性4:赤丸の部分でスポークは接触交差していて、その間の穴の数は4つである(これは「6本組」とか「3クロス」と呼ばれる組み方で、競輪の自転車に見られる8本組ではこうなっていません)


...で、この4つの規則性を満足する組み方が1通りであればいいのですが、実際は4通りあります。上の写真はそのうちの1通りですが、外側にスポークの頭がある紫色で示したスポークを内側から通し(=内側からスポークをハブに差し込めば頭が内側に来る)、水色の矢印で示したスポークの頭が内側に来るようにしても4つの規則性を満足します。反対側のフランジについても同じことが言えるので、2×2で4通りです。
組み方の種類
この4パターンには名前が付いていて(知らなくても問題ない部分は文字の色が薄くなっています)
 1.リムにブレーキをかけたときに張力がかかるスポーク(上の写真では水色のスポーク)の頭が内側に来るように組む <− イタリアン組み
 2.リムにブレーキをかけたときに張力がかかるスポーク(上の写真では水色のスポーク)の頭が外側に来るように組む <− 逆イタリアン組み
 3.右側をイタリアン組にして左を逆イタリアン組みにする <− JIS組み(ママチャリはこの組み方で統一されています)
 4.左側をイタリアン組にして右を逆イタリアン組みにする <− 逆JIS組み(この名前聞いたことがないので名前付いていないかも... 上の写真はこれです)

この4通りのうち、どれを採用すべきかですがディスクブレーキを使う場合については下の写真の通り組むことをSHIMANOが推奨しています(フロントは逆イタリアン組みです)。リムブレーキの場合はイタリアン組が多数派です。内側に頭があるスポークの方が強度が高いという噂(半分迷信と思ってください)がありイタリアン組が主流になった物と思います。ディスクブレーキではスポークにかかる張力がリムブレーキとは逆になるので逆イタリアンが採用された物と思われます。後輪が逆イタリアンでないのは、前輪にはない後輪の特性
 1.リアブレーキがそもそもあまり効かないのでブレーキによるスポークの負担が大きくない
 2.後輪は「おちょこ量」が大きいのでギヤ側(右側)のスポークの張力が異常に高い
 3.後輪は駆動力によるトルクがかかる
 4.チェーンがギヤとスポークの間に落ちる可能性がある
のどれかを考慮した物と思います。(どれが理由だか解りません。4かな?)
上の写真の自転車が逆JIS組という超レアな組み方になっているのはリムブレーキの自転車であれば4つの組み方のどれでもかまわないので、特に気にせず組み上げたためです。それが偶然、逆JISになっただけのことです。


片側のフランジにすべてスポークを通した後、反対側の一本をどの方向に通すかで組み方が変わります。これはSHIMANO推奨の組み方。間違えてもやり直しがきくので気楽に考えておけばOK。やり直すのは面倒ですが...


スポークを通した後はニップルをねじ込んでおくとネジでリムを傷つけることが少なくなります。交差するスポークを規則性4に従って片側だけ紐で縛っておくと組みやすくなります。


養生のために取り付けたニップルを一つ外してはリムに通してニップルをねじ込み、一つ外してはリムに通してニップルをねじ込む。これをひたすら繰り返します。この時、規則性1を満足していることを確認しやすいようにバルブ穴の近辺から組み上げていくことがポイントです。同時に規則性2も確認します。このときスポークの通し方が間違っていると4つの規則性を満足できなくなります。そのときは3つ上の写真の所まで戻って、反対側のフランジの最初の一本のスポークを通す向きを逆にします。

通し終わると左の写真のようになります。スポークは弓なりにのたうち回っている状態。次の目標は右の写真の状態。写真で見ても解りませんが...
 1.リムが縦にも横にも振れていない
 2.スポークの張力がすべて同一
    ・実際はハブのフランジがセンターにないので左右のスポークの張力は異なります
    ・リムブレーキの前ハブはフランジの位置が左右対称なのでスポークの張力は同じになります
...という状態です。リムが真円でスポークが幾何学的に規則性を持っていれば 「振れていない状態」=「スポークの張力が均等」 が成り立つはずなのですが、不思議なことにそうならないのです。

左右のスポークの張力が同じ方が組みやすいので初めてホイールを組む人は前輪から組んでみることをおすすめします。


スポークをリムに通しただけの状態 <− MOVIE(ゆるゆるです)

スポークのネジ部が見えなくなるまでニップルをドライバーで回していきます。これはまだちょっとネジが見えているので、あと1回転くらいねじ込みます。スポークが長くてネジが見えなくなってもまだ張力が殆どかかっていない状態なら左右同じ回転数だけねじ込みます。逆にドライバーで締め込むことが出来なくなるくらいトルクが必要であればねじ山を若干残した状態にします。


ドライバーでネジが見えなくなるまでニップルを締め込んだ状態 <− MOVIE(まだ盛大に振れていますが、上のMOVIEのようにスポークを持って左右に振ろうとしても張力がかかっているので、もう無理な状態です。強度の点ではまだ「ゆるゆる」です)

センターゲージはホイールの左右でハブがリムよりどれだけ出っ張っているかを比べる道具です。構造はとても単純で中央部のピストンがスライドするだけです。横に付いているネジでピストンを固定できます。


使い方も単純です、このようにホイールの上に乗せてピストンをハブに接触させます、そしてピストンをネジで固定。今度はホイールをひっくり返してセンターゲージを乗せます。リムがハブのセンターに来ていれば、この右の写真のように隙間は出来ません。隙間がある場合は片側のスポークを締め込んで(右の写真の場合は下側のフランジのスポークを締め込む)ハブをセンターに寄せます。1回でリムがハブのセンターに来ることはないのでこれを何度か繰り返します。


ドライバーでニップルを締め込んだだけででは、まだスポークに十分な張力がかかっておらず、「ゆるゆる」の状態です。ここからスポークの張力を上げていく作業に入ります。リムブレーキ用ハブの場合、左右のスポークの長さが同じなのでドライバーでニップルを締め込んだだけで大体リムがセンターに来ます。後輪やディスクブレーキ対応のハブの場合は左右のスポークの長さが異なるのでセンターに来ることは殆どありません。あまり大きく偏っていると後で移動させるのが困難になるので、最初は片側のニップルだけをすべて同じ角度だけ締め込んでリムがセンターに来るようにします。このとき細かな振れは気にしないようにします。


【張力を上げる】
 張力を上げていくときのルール(特にこうしなければいけないってことではありません、いろいろあるやり方の一つです)
  1.最初は1/2回転ずつニップルを回していく
  2.張力が殆どかかっていないスポークは1/2+1/4回転させる
  3.張力が上がってきたら1/4回転ずつ回していく
  4.張力が特に強かったり、弱かったりするスポークには目印をつけておく
  5.大きな縦振れ(1mm以上)や横振れ(5mm以上)は張力を上げていく段階ですこしずつ取っておく

振れ取り台に紙テープを貼ってリムとの隙間を見ます。こうすると接触してもキズが付きません。右の写真は張力の弱いスポークに紙テープを貼って目印にしています。


【振れを取る】
 張力が上がってきたら
  1.縦の振れは出っ張っている箇所を見つけて対になるスポークを両方とも締める
    対になるスポークとは隣り合っているスポークのことです。例えばピンクと水色の洗濯ばさみが付いている物がそれです。
  2.横の振れは対になっているスポークの一方を締めて、一方を緩める。


【張力のバランスを取る】
振れを取るとどうしても張力が弱いスポークや強すぎるスポークが出てきます。大抵そのようなスポークを適切な張力にしようとすると余計に振れが大きくなったりします、このよう時はそのスポークの張力が適切でない原因が他のスポークにあります。その近辺のスポークの張力が異常に強かったりしないか確認します。例えば、水色の洗濯ばさみを付けたスポークの張力を上げていくとピンク色の洗濯ばさみをつけたスポークは逆に緩んできます。これはピンク色の洗濯ばさみのスポークが緩いのではなく、その両サイドのスポークを強く張りすぎているのです。これは簡単な例ですが、実際はもっと複雑な図式になっています。図式を複雑にしているのは...
 1.ディスクブレーキ用ハブや後輪では左右のスポークの張力がかなり違う
 2.互いにクロスしているスポークは相互に影響を受ける
 3.スポークはハブから放射状に出ているのではない
等々です。
理屈をいちいち考えているとやってられないので、その辺を「何となく」推測しながら作業を進めていきます。


【なじみを出す】
ニップルを締め込んでいくとスポークがねじれた状態になります。(スポークは細くて長いので30度くらいは楽にねじれます)ねじれは走行中に自然に取れていきますが、ねじれが取れた状態=振れが出ている状態になります。振れを取る−>走行する−>振れを取る−>走行する を繰り返してもかまいませんが、手間がかかりすぎるので下の写真の青い洗濯ばさみの部分を支えてピンクの洗濯ばさみの部分を押してあげます。するとリムがわずかに変形して同時にパキッと音がしてスポークのねじれが取れます。これを30〜45度ずつずらしながら4〜5回やります。また、ホイールを裏返して同じことをします。なじみが出るとたいてい左右に振れが出るので振れ取りを再度実施します。


以上の一連の作業を4〜5回繰り返してホイールを完成させます。2巡目あたりで縦振れ0.5mm、横振れ2mm以下にしてしまうほうが、振れ取りにかかる時間が短くなるように思います。

張力を上げる
 ↓
センターゲージで確認する
 ↓
片側のニップルだけ締め込んで(あるいは緩めて)リムをセンターに寄せる
 ↓
振れを取る
 ↓
なじみを出す
 ↓
振れを取る
 ↓
センターゲージで確認する


後輪は「おちょこ」になっている。左のスポークの張力は弱く、右側が強い。


DTのスポークカリキュレータで計算したスポーク長さはぴったりでした。若干後輪の反ギヤ側(左側)が0.5mmほど長い感じですが許容範囲内です。写真は前輪の物。


振れは完全にゼロにはなりません。あまり神経質になっても、タイヤの方がそれほど真円でないので、ほどほどのところで折り合いをつけます。厳密には加重(体重)がかかっているときの振れが大切で、それには無加重の時にスポークの張力が同じになっていないといけません。こんなことを考えているときりがないのでテキトーなところであきらめるのです。

これ以上振れを取るのは無理でした。
横振れ <− MOVIE(画像が荒くてあまり振れていないように見えますが肉眼だともっと振れているように見えます)
縦振れ <− MOVIE

両方とも前輪です。クイックが付いていない状態です。やはりマグネシウムリムは圧倒的に軽くできます。リムの幅が広いためかマグネシウムリムの方が振れ取りが楽でした。マグネシウム製リムはものすごく高価ですが、この軽さなら完組ホイールよりコストパフォーマンスが優れています。強度は走ってみないと解りませんが、へなちょこな足なのでたぶん大丈夫でしょう。


こちらは後輪、共にクイックは付いていない状態です。もちろんディスクローターとギヤも付いていません。この秤、500g以上は5g単位でしか計測できないので5gは誤差の範囲です。


スポークが組終わったらカセットスプロケットを取り付けます。ハブ側の溝は一カ所だけ幅が広くなっていてハブとスプロケットの位置は一意に決まります。


締め付けトルクは400kgf/cm。どれほどのトルクなのかトルクレンチを使って確認してみましたが、1/2インチのソケットレンチなら「かなり思いっきり締める」という感じです。右の写真はロックリングです、ローギヤの表面の凸凹とロックリングの凸凹が薄いワッシャーを介してかみ合うことでゆるみを防止しています。締め付けるときは凸凹がかみ合う感触がグッグッグッと手に伝わってきます。


ディスクローターとハブはこのギザギザで嵌合します。


カセットスプロケットと同じ工具で取り付けます。後ハブは軸が前輪より多く出っ張っているのでソケットレンチが奥までささりません。TL−HG10を使用しましたが、TL−LR10を使うのが正解です。


完成した2組のホイール。後輪はギヤが取り付けられるととても重くなります。マグネシウムは水に弱いらしいのでマグネシウム製リムのほうは晴れ用、アルミ製リムの方は雨用です。



その後:

 前輪はあまり振れていないのでそのまま、後輪は少し振れていたので調整です。大きく振れているように見えますが実際は0.6〜0.7mm程度です。
 この程度の振れであれば調整しなければいけないスポークは2〜3本です。
 初心者コースで約1.5時間、クロスカントリーレースで2時間走行した後の振れ <−MOVIE