電源トランス自作 作成:2005-05-12〜

トランスの構造は鉄芯に銅線を巻いただけの簡単な構造です。市販のトランスの鉄芯(コア)は薄い板を積層した構造になっていますが無垢材(通常のSS400)で出来るかも実験してみます。


書店でトランスの本を探しましたが、見つかりません。これはかなり前に購入した本です。表紙の写真の通りパソコンのマザーボートや電源装置の中にあるような小型の物を対象としているので電源トランスを作るのに必要な十分な情報はありません。でも、これしかないので、これを頼りに設計してみます。(現在この本は表紙が真っ黒にリニューアルされて販売されています)


上の本に載っていた法則
 法則1.コアを無垢材で作ると、コア内部に渦電流が起こり電流損失となる。
      そういえばトランスのコアは薄い板を張り合わせた構造になっている
 法則2.渦電流による損失は周波数を上げると増える
 法則3.コアはトロイド形状(ドーナツ形)が望ましい。
      トランスはたいてい四角ドーナツなので理想的とはいえないってことだ。
      但しどの程度理想から離れているのかは不明だ。
 法則4. コアにコイルをたくさん巻いたり、電流をたくさん流したりすると、それだけ多くの磁力が発生するがコアの大きさにより限界がある
      コアが大きいほど磁力もたくさん発生する

決めなければいけないことは3つある
 1.どんな寸法の鉄芯に
 2.どんな太さの銅線を
 3.何回巻けばいいのか


とりあえず3番目の「何回巻けばいいのか」から求めてみる

29ページにこんな式が掲載されている

Bpeak=Vrms/(√2×π×f×S×N)

項目名 意味 単位 解説
Bpeak 交流を流したときの最大磁束密度 [Wb/m
Wbはウェーバーと読む
コイルに巻かれた鉄芯の単位面積あたりの磁束の量
この値を10000倍すると聞きなれたガウスという値になる
Vrms 交流電圧 [V] 家庭用の電源が入力なら100ボルト
交流周波数 [Hz] 関東なら50Hz、関西なら60Hz
鉄芯の断面積 [m コイルが巻かれた鉄芯をコイルの巻軸で輪切りにしたときの断面積
2つ下の写真の赤線の部分の断面積です
コイルの巻数 [回]
※物理学的には巻き数に単位はありません


この式をN=に展開すると

N=Vrms/(√2×π×f×S×Bpeak)

となる。この回数分だけコイルを巻いてやればよいのだが
Bpeakをいくつにしたらいいのだろうか?
磁束密度は
 1.コイルの巻き数を多くすると大きくなる
 2.コイルに流す電流を大きくすると大きくなる
という法則があるのだか、あるところで頭打ちになってしまう。これが飽和磁束密度。
飽和磁束密度は鉄芯の種類により異なるはずなのだがこれがわからない。インターネットで色々検索しても見つからない
ほしいのはSS400の飽和磁束密度だ。

よくわからないときは実験してみるに限る。適当な丸棒と、銅線を買ってきて実験してみよう。

銅線を買ってきました。裸線に見えますが、表面はポリウレタンで覆われています。UEWというのはポリウレタン銅線の意味です。このボビン、缶詰くらいの大きさです。この大きさで0.7mmの線が約300メートルあります。オヤイデ電気で購入。ホームページを見るとわかりますが、この電線は長さではなく重さで売っています。


コアのサイズを計算するワークシートを作りました。青い物がコアの断面形状です。この図形を一点鎖線を軸に回転させて出来る図形がコアの形状(リング状に穴のあいた円柱形)です。白く抜けているところはコイルが入る場所です。磁力の通り道にボトルネックが出来ないように
、黒線のところで切った断面積が同じになるようにしました。コイルの巻き数は入力100V、出力100Vで設計しました。入力と出力が同じ電圧なので1次と2次では同じ回数だけ巻くことになります。出力が100Vだといろいろな電気製品を負荷に出来るので実験には好都合です。
 ・コアの直径80mm
 ・コアの高さ70mm
 ・1次巻き線数約500回(厳密には533回)
 ・2次巻き線数は1次と同じ

trans.zip へのリンク <-EXCELファイル現物

コアの素材が届きました。材質は普通の鉄(SS400)。直径80mmです。外周部はきれいに削らなくてもトランスとして機能しますが、汚らしいので一皮むきます。


両端面をバンドソーで切断すると銜えるときの基準面が外径しかなくなります。外爪は銜える部分の爪の長さが短いので芯が合わなくて苦労します。右は完成したコアの素材。この後、コイルが通る部分を掘ります。


下穴をあけてから、掘削開始。Z軸の送りは0.4mm程度が限界。これ以上はビビリがひどくなります。エンドミルの径は12mm。


数ミリ掘ったところでエンドミルの切れ味が落ちてきました。浅い部分は旋盤でも掘れるので工法変更です。


新しく作ったホルダーで掘っていきます。エンドミルよりずっと早く掘ることが出来ます。でもまだかなり残っています。あと3時間くらいかかりそうです。これだけ大きく削るとチップ1〜2個が寿命になりそうです。チップは1個¥600と決して安くはありません。


小型しゃぶしゃぶ鍋が完成。電線が通る穴はコイルを巻いてから現物合わせで決めます。予想通りチップが1つ分欠けてしまいました。ドリルで穴を開けた部分でチップに衝撃がかかるのが原因です。穴の部分で送りに必要な力がゼロに近くなるのでその部分で送り量が増えてしまいチップに無理な力がかかります。